昔むかし、あるところに、ではないが、今から5〜6年前(2000年の頃)、この界隈にタヌキが出た。西國寺の仁王門からトロトロ下り、レンガ坂に入る入口あたりの溝をチョトチョロする怪し気な「猫」、だと思っていたが、それが雄のタヌキだと分かった。
お好み焼き屋「ぽんた」のご主人渡辺さんが満面の笑みで話し出す。
彼が「ぽんた」と出会ったのは、丁度体調を崩し、サラリーマンを止め、家で養生しているときだった。
餌をやっている内に、夜中から朝までタヌキと遊ぶこともあった。仲良くなると愛称で呼びたくなるのは人の道理。怪し気な猫、ではなくタヌキは「ぽんた」と名付けられ、彼が名前を呼ぶと出て来るようになった。
昼間でも!!?信じられない話だが事実そうであったらしい。お祭りの夕刻、人通りが多いときでも、出て来るのだという。そんな「ぽんた」が夜中にクンクン犬のような哭き声を出し、甘えて彼を呼びに来る事もあったという。相思相愛の仲とはこのことか...。
この話が巷に流れ、渡辺さん宅に「ぽんた」への貢ぎ物が多くなった。料理屋からの差し入れ、スーパーの賞味期限切れの食材などなど、その分、「ぽんた」はだんだん贅沢になり、大好物の油揚のほか、焼豚が大層口にあったようだ。
そんな「ぽんた」が家族を持った。いつしか、愛妻を連れて現れるようになった。愛妻はどの世でも同じく、疑い深く、決して渡辺さんに近付こうとしない。「ぽんた」はその反対で渡辺さんの足下にまでやって来る。やって来ては、犬同様に鼻や尻を触らせ、家の中にまで入ってくることもあったという。
人間社会は別として、自然界では家族を持つとその数は増えるものである。「ぽんた」も1年目に8匹、その翌年は2匹と子孫を残した。その間、愛妻の子育て期間中、「ぽんた」は口に一杯の食べ物を詰め込み、隠れ家と渡辺家の前を往復していたという。そんな「ぽんた」が意気揚々と家族を引き連れ、渡辺さん宅の前に現れる様は微笑ましかったに違いない。
こんなこともあったという。「ぽんた」は車の動きが読めたという。道路のまん中にドンとすわり、車が坂をのぼって来て、ウインカーをあげたら全く動かない。直進してくるときだけは、そそくさと溝に非難する。
タヌキは犬が天敵なのか、敏しょうに反応する。が、「ぽんた」は犬が遠くからやってくるのは早々と察知するが、それ以上にヒモに繋がれているか、いないかも判断するようで、ヒモに繋がれ散歩にやってくる犬には動じなかったという。ニャンとも犬以上に知的水準をもっていたのかな、と博学の吾輩でも驚いた。
そんな「ぽんた」一家は、渡辺さんご夫妻が始めたお好み焼き屋「ぽんた」が順調に行くのを見届けて安心したのか、開業後1年くらいは経過した頃、いつの間にか、姿を見せなくなってしまった...。







