ところが、である。運転手君は何を勘違いしたか、我々を全く違う場所に降ろしてしまった。言葉が通じなかったわけではない。
我々とは、吾輩と吾輩の娘、それに友人の画家の3名に、娘の友人でイタリア人のフランチェスカだ。そのフランチェスカが雨の中を尋ね歩いてくれ、やっとの思いで港内のシャトルバスを見つけた。タクシーに降ろされた場所から実に1kmぐらいは離れている場所にある、正式な桟橋にたどり着き、我々は安堵した。
切符を買い、出港までの合間、我々は売店でエスプレッソやビールを飲み、時間を潰した。外は雷鳴と篠突く雨だ。少々ガッカリしていた吾輩たちだが、出港時間に近くなって、不思議なことに雨脚が緩やかになった。
落雷混じりの冷たい雨が降るベヴェレッロ港をフェリーは出航した。十数分は経ったろうか。吾輩は客室に座っていたが、やがて雨は止み、外の空気を吸いたくなって、上階のデッキに昇った。目の前に遠く雪を冠ったヴェスヴィオ火山、左手にはナポリの街の全貌が姿を現している。右手の空はまだまだ黒い雲に覆われていた。
イタリアでは「ナポリを見て死ね。」というらしいが、今のナポリはゴミが溢れている。20年来、ゴミ紛争が解決しないのだという。雲行きはまだ怪しいが、フェリーがベヴェレッロ港を離れるつれ、ヴェスヴィオ山やなだらかな丘の斜面にびっしりと並んだビル群を眺めていると、その言葉の真実みが伝わってくる。ナポリはやはり美しい。

フェリーでの旅は60分。その間、客室からデッキへの昇降を繰り返した。写真を撮るためだ。面白い恰好の船が来ればパチリ、雲の合間に光が射せばパチリという具合だ。そうこうしている内に、ナポリから最も近い島、しかも我々がその魅力に心躍らせていたプローチダ島が姿を現して来た。










