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海辺に建つ美しい二つの建築物は

尾道のまちづくり/Machizukuri> 増田友也の尾道市庁舎と公会堂/CityhallProblem02

増田友也の尾道市庁舎と公会堂/CityhallProblem02


増田友也の尾道市庁舎と公会堂/CityhallProblem02

建設当時の尾道市庁舎本館と公会堂


運良く1960年当時に撮影された一部(206.713u)6階建て新築の尾道市庁舎と、1962年に撮影された市庁舎と公会堂の写真を入手した。それを見ると、海辺に建つ二つの建築物の美しさに魅了される。なかでも市庁舎本館は今の増築された市庁舎とは違って、プロポーションが実に良い。そして公会堂と市庁舎の東西軸の長さもほぼ同一に設計されていて、尾道町が海側を正面として作られてきた港町であり、その玄関に相応しい建物であることが、今更ながらに見えてくる。
千光寺、天寧寺の海雲塔、西國寺の三重塔、浄土寺の多宝塔と尾道三山を背景に、建築家・増田友也の設計した尾道市庁舎と尾道市公会堂は、不必要なデザインを限りなく削ぎ落とし、尾道の都市空間に溶け込むように水平の広がりを持たせながら、バランスよく海辺の「まち」の中心性を保たせている。

なぜ尾道市は市庁舎の正確な情報を尾道市民に公表しない?


今回、問題となっている尾道市庁舎の新築問題で、尾道市が「現在の市庁舎の耐震性能が極めて弱い」と表現している市庁舎は、まったく異なった構造体の二つの建物が連結されものであり、しかも本館竣工の12年後(1972年)に5階建ての屋上に増築した元食堂部分と本館西側の増築棟だけが、著しく耐震性能が弱いという事実である。
尾道市は市庁舎の正確な情報を尾道市民に公表していない。6階の増築部分を減築し、本館西側の増築棟を取り壊せば、増田友也が設計した新築当時の美しいプロポーションの本館が甦り、その耐震性も極めて高くなると想像される。
尾道市庁舎整備検討委員会で公表された市庁舎本館の耐震性能診断の結果(東西方向と南北方向のIs値の格差)に、素人ながら大いなる疑問があると吾輩は思っている。その数値は以下の通りだ。ちなみに東日本大震災後に国が指定したIs値基準は、国の行政施設がIs値=0.9で、地方行政の施設がIs=0.7〜0.65だ。現在の尾道市庁舎本館の東西方向におけるIs値が、国の基準をかなり高い数値でクリアしていることが明確だ。
東西方向のIs値(1階/0.62)(2階/0.66)(3階/0.73)(4階/0.9)(5階/1.01)(6階/0.94)、南北方向のIs値(1階/0.31)(2階/0.29)(3階/0.30)(4階/0.28)(5階/0.26)(6階/0.24)
それは、1960年当時『東の丹下健三(東京大学教授)、西の増田友也』と評された日本を代表する建築家・増田友也の設計した尾道市庁舎が、尾道市の発表では東西軸で耐震強度(Is値)が高く、南北軸では極めて弱いという耐震性能の診断結果だ。
日本を代表する建築家の設計の裏付けには、必ず一流の構造専門家の存在があった筈だ。その人たちが建物の耐震性能を東西軸と南北軸でアンバランスに設計することが、考えられるだろうか。
吾輩の推測通り、尾道市庁舎と公会堂の構造設計を担当した人物がわかった。東の建築家・丹下健三には坪井善勝、西の建築家・増田友也には横尾義貫と、当時の日本を代表する構造のスペシャリストがついている。そして横尾義貫は1975年〜1976年、坪井善勝は1967年〜1968年と日本建築学会の会長を務めた人物である。

日本建築学会大会のガイドブックに掲載された尾道市庁舎のデータ


増田友也の尾道市庁舎と公会堂/CityhallProblem02
広島工業大学での日本建築学会大会(2000年)開催時に配布されたガイドブックに掲載された尾道市庁舎に関する以下のデータには、興味深いことが記載されている。

建築ガイド(尾道市)

<所在地>尾道市久保1-15 <竣工年>1960年<設計>増田友也<施行>大林組
<構造形式>RC造5階
<特徴>瀬戸内海に面して建つ、センターコアシステムによる市庁舎。四周には現場打ちコンクリートの手摺がまわり、3階以上では柱列の外側にガラススクリーンが配された。エントランスロビーに入るとガラス越しに海を見通すことができる。モデュールの導入など、モダニズムの秩序観が見てとれる。
注目すべきは、このセンターコアシステムという専門用語だ。調べてみると、「階段、エレベーターなど、付属的な施設として必要なものを各階の同じ位置に集中して設け(サービスコアと呼ぶ)、これを耐震壁や柱などの構造部材(構造コアstructural coreという)として活用する建築構造計画の一手法」とある。
尾道市庁舎整備検討委員会で公表されたデータを基にしても、市庁舎本館は2〜3億円以内の耐震補強工事で国が基準とする最高レベル(Is=0.9)の耐震性能を得られるといわれる。その市庁舎本館を敢えて解体するというのだ。
これは推測に過ぎないが、第三者の耐震性能診断を行うことで、万が一、構造コアの正確な評価ができ、耐震性能が極めて強いという結果が出たとしたら、文化的価値の高い二つの建築物、すなわち市庁舎本館と建築費の大部分を市民の寄付により建設された公会堂まで解体するという行為は、信じ難い暴挙であり、尾道市と尾道市民の末代までの「恥」として、岩に刻まれることになるだろう。残念ながら、第三者の耐震診断はなされていない。
心配性の吾輩、尾道市が公表した市庁舎本館の耐震性能診断が正しいのであれば、この際、その「構造コアの評価を誤っているのではないか」という疑念が間違っているという証として、当然ながら尾道市はNTTファシリティーの耐震性能診断の詳細なデータの情報公開を行うべきではないだろうか。(2014年4月14日)
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