吉和には『家船』という漁村特有の暮らしがあった。陸に家を持たず、船をねぐらに漁業や行商に従事する父母と共に『一所不在』の生活を送るこどもたち。
かれらは、船に暮らすことで、幼少時から漁や商いの技術を習得するとともに、貴重な労働力としてその家族のなりわいを支えてきた。祖父から父へ、父から子へ。
だが、何代も引き継がれてきたこの暮らしのありようも、時代の流れにあらがうことはできなかった。「学校へ行きたい!」こどもたちはひとつの断念とともに新しい世界に活路を求めて行く。
海に生きる父母の元を離れ、「学寮」に集うこどもたち。そこには、ひとつの時代を生きたにんげんの夢と孤独があった。
−フォトスト−リ−[学寮物語]より
<発刊にあたって>
(前略)…尾道市の吉和地区に「尾道学寮」という施設があったことをご記憶されていますか。
これは漁業や船で行商をする家庭の子どもたちが生活の場とし、学校教育を受けるための基点とした施設です。吉和小学校に紋日学級が開設され、定員が250名の尾道学寮は昭和30年代には全国の脚光を浴びていました。その尾道学寮も昭和52年には廃止され、20余年の月日が流れ人々の記憶から消えつつあります。
(中略) …(1999年5月)尾道市から今治市まで架橋(しまなみ海道)され、陸路元年を迎えようとしており、それに伴い海にかかわる仕事に従事してきた人々の生活も大きく変わろうとしています。そこで島から島へと船でしか行き来ができなかった時代に、重要な役割を担った尾道学寮の歴史をふりかえったみてはという話が持ち上がりました。
昨年(1997年)、尾道学寮で子どもたちと一緒に生活した職員OBと関心をもつ有志が、尾道市の市制百周年を期に尾道学寮について記録に止めようと刊行委員会を発足させ編集に取りかかり、この度不備な点も多々ございますが小冊子を発刊いたしました。…(後略)…
1998年11月「尾道学寮物語」刊行委員会
尾道学寮物語
<尾道・吉和漁港 家船のこどもたちの記録>
編者 尾道学寮物語刊行委員会
発行者 中村隆子
発行所 有限会社 家族社
730-0001広島市中区白島北町16-25
TEL 082-211-0266 FAX 082-211-1761
取扱い 地方出版流通センタ−
定価 2,000円(本体1,905円)