トップ > 050 記憶の中のあのお店 > 珈琲専門店「カフェ バグ」

珈琲専門店「カフェ バグ」

虚栄心を売らない、本質が生きている尾道が好きなんです...。
珈琲専門店「カフェ バグ」
珈琲専門店「カフェ バグ」
珈琲専門店「カフェ バグ」

イタリアのスーパー焙煎機
 映画「バクダット・カフェ」に因んで名付けられたこの店は、コ−ヒ−通には欠かせない憩いの場所だ。1994年(平成6年)、福山市からこの町に家族で移り住んだマスタ−の郷隆二さん、「焙煎という行為を通じて、コ−ヒ−豆のもつ自然を引き出せたら」という。
 業界では一般的にドイツ製のものが主流な中で、彼は1998年の春、日本では初めてというイタリア製の焙煎機を購入することに決め、現地イタリアへ視察に出掛けた。焙煎機に対する彼の思いは相当なものだ。ところで、その焙煎機は、その当時の店のスペ−スには納まり切れず、密かに新たに店を移転することに決めていた。

焙煎機の火入れ式
 1999年6月19日(土)の夕刻、すでに焙煎機のバ−ナ−は点火され、まるでフェラーリのエンジン音さながらに、イグゾーストからはヴォ−ッという轟音とともに100度を越す熱風が外に吐き出されていた。
 焙煎機の新居がやっと決まり、試運転が繰り替えさせていた。新しい場所は、久保八幡宮の三体神輿が納められている明神さんの入り口に近く、車庫らしき空間を賃貸したもので、お店は外浜通りに面した今までの場所で営業を続けるとか。
 それにしても、この焙煎機はまるで車のような存在感がある。ステンと黄色に塗られたボディは彼が惚れるだけの代物だと納得した。不思議なもので、陶芸窯の火入れには、神様が祭られているが、このイタリア産焙煎機も明神さんという神様が祭られる社の入り口に鎮座し、車然として車庫のような空間にピッタリはまっていた。
 ある種の緊迫感が漂う彼の口から「夢の機械じゃなかったですね。」とちょっぴり、落胆気味の言葉がもれた。相当じゃじゃ馬のようだ。イタリアから船ではるばるやってきて、新居が見つからず、約2ヶ月間、神戸の倉庫で眠っていたらしい。これからジックリとバクダットのマスター郷さんの熱いまなざしと巧みな技術で、焙煎機は長い眠りからゆっくり目覚めさせられるのだろう。ともかくも火入れ式は一応終わった。

”本質が生きている尾道が好き”
 あれから何年経ったのだろうか。尾道に初めて珈琲店「バクダッド カフェ」を開いたのが1994年、土堂本通りのシーアレーというビルの1階の奥だった。やがてこのビルから住吉浜の2番目となる店に1996年移った。
 濃くてしかも切れ味の良い彼のコ−ヒ−を愛飲する馴染みの客は多い。コ−ヒ−を点てる彼の姿は修行僧の雰囲気を漂わせ、その「一刀淹て」の技を見るのも興味深い。そんな彼もご多分にもれず無口だが、ときおり淡々と語る言葉にドキッとするものがある。「虚栄心を売らない、本質が生きている尾道が好きなんです。」

日本で初めてのイタリア製焙煎機が本格稼動!
 久しぶりに息抜きしたくて店に寄る。マスターは黙って焙煎室に入ったかと思うと、やわら特別な玉手箱よろしく、長方形の箱を大事そうに抱えて出てきた。金属製の蓋を開けると、珈琲豆が鎮座していた。その豆たちは、今まで見た黒っぽい珈琲豆の色とは違って、明るいチョコレート色をしているのだ。「ハハァ、新しい焙煎機で煎った豆だな!」
 「これは夢の機械じゃなかった.....。」と思わず、落胆して漏らした言葉が遠い昔のようだ。今では、「これはやはり夢の機械だ!」と言わんばかりに、無口なバクダッドのマスターの顔には笑みがこぼれ出ていた。黙ったまま、しかし、顔はニンマリ笑っている。

エスプレッソ、唇が忘れない
 エスプレッソを入れてくれた。薫りを嗅いでみると、今までとは違って、より珈琲の甘い薫りがとろけるように漂ってきた。「......ニャーゴロ。」

<写真はエスプレッソのダブル きめ細かい泡立ちがエスプレッソの特徴>

 まずは、砂糖を入れず味わってみる。「フ〜ン...。違う。今までのアジと違う...。」アジが濃くて、渋みというか、苦みというか、その一歩手前のところで留まっているのだ。1〜2分間をおいて、もういっぱい注文した。今度は砂糖を入れてみる。珈琲カップに注がれたエスプレッソの厚味のある気泡にほんの少し砂糖を入れる。砂糖は、小サジからこぼれ落ち、気泡の上に一時留まる。やがて跡形もなく中に吸い込まれとけ込んでいった。

<エスプレッソの泡立ちが色濃く残る>

 ふたたび珈琲カップを口元に寄せ、味わってみた。深く濃い味が訪れ、やがて不思議なくらい、ス−と透き通るように味が消えていった。まるで砂糖が小サジからこぼれ落ち、気泡の上に一時留まり、ス−と消えていったあの情景がそのまま「味」に表現されている。「.....凄い!!...。」
<唇が忘れない、とはこのことか!!>

スペシャルティ・コーヒーのカフェ「バグ」
 2002年、安住の地と思える3番目の現在の地(中国銀行尾道支店の斜め前の本通り)に店を移した。名も「カフェ バグ」と変えた。
 店内には試行錯誤の末、マスターが一番気に入った空間の設えとなった。当初は店の左手奥にはグループ専用に6席くらいのテーブルと椅子が置かれていたが、そこには例の焙煎機がドカッと鎮座し、ほどほどの明るさに調整された店内にあって、まるでライトアップされた尾道の寺々の威容を感じさせる。
 しっとりとした空間の客席と焙煎機が置かれた空間の仕切りには、ALTEC社のマグニフィセントという大きなスピーカーが、まるで阿吽の狛犬のごとく飾られ、深みのある美しい音色を奏でている。店主が居心地よいように設えたこの店は、お客にとっても最高の憩いの場所だ。
 そんな店主は今日もスペシャルティ・コーヒーと対峙する。「質の高い珈琲豆をいかに上手く焙煎し、おいしい珈琲を点てるか」彼の頭の中にはこの言葉しかないように吾輩には思えるのだが...。
 ところで、スペシャルティ・コーヒーという意味を御存じだろうか。浅学非才な吾輩が、無口な彼にちょっぴりご指南いただいたのだが、どうやら、高原栽培された珈琲豆で、しかも一定の熟度のものだけ収穫された珈琲豆のことをいうようだ。
 こう云ってしまえばそれだけのことかと思うだろうが、まだまだ理解が足らない。実は、珈琲の木というものは、やっかいなもので、1本の木でも枝1本1本で、さらには1本の枝の中にもそれぞれ豆の熟度が違うというのだ。
 えっ、そんなに厄介な条件下で同じ熟度の豆だけを収穫するなんて....。 大変な労力で選ばれた珈琲豆を注意深く焙煎し、点てられた珈琲をスペシャルティ・コーヒーというんだニャン。

エスプレッソをおいしく味わう法
 バグの主人が「エスプレッソをおいしく味わうには、泡を最後まで残しながら、飲むんですよ」。この一言で、吾輩はハッとした。そんなことなど、全く何にも意識せず、飲んでいたのだ。もう一杯おくれ!!

それにしても、どうやって、飲むの?!"
 アッ!そうか。生ビールを飲む要領で飲めば良いのだ!! と合点がいき、珈琲カップを優しく唇にあて、エスプレッソが吾輩の口の中に流れ込むまで、ゆ〜くりと傾けてみた。
 泡の下から濃くてしかもしゃっきり感のエスプレッソが流れ込んできた。ウ〜ン、なるほど。エスプレッソにも、ド素人であったと自覚する吾輩は、カップの中に泡が残っているのを何度も何度も確かめながら、すするのではく、流れ込むまでジっーと耐え忍びながら、味わってみた。
 なるほど。最後は、甘い砂糖がほどよく解けた、実に後味のよいエスプレッソが珈琲カップから流れ出る。
 あなたも今日からエスプレッソの通!!

 と、いうのは4〜5年前の飲み方のようで、最近エスプレッソは泡をできるだけ少なくして入れるのが主流だそうだ。どうやら味の国際基準とやらがあるそうで、おいしいさを評価する審査員も毎年変わるそうだ。そんなことから、入れ方が変わり、飲み方も変わるということらしい。
 ともかくも、世界各国から仕入れた小さな珈琲豆を通して彼には世界が見えている。

珈琲豆を全国に発送する「カフェ バグ」

*また一つ尾道の誇るものが消えていった。2008年4月20日、カフェ バグ(CafeVag)は尾道から広島に移転し、2014年奥さんの実家がある尾道市因島土生町に安住した。
続き

バックリンク(24) 参照(5824)

路地ニャンシャーロック
会計レジを見る








メルマガ登録・解除


路地ニャン公の独り言
copyright bisansecession Powerd by