店名に込めた願い
店名の「郷土味 かけはし」には、店主の強い想いが込められていた。店主の柿本孝直・早苗ご夫妻が尾道本通り西入口(林芙美子像前)にお店を開いたのは、平成22年(2009年)だ。
年配の尾道人の脳裏には、この場所が乳母車屋であった記憶が今も鮮明に残っているのではないだろうか。その乳母車屋とは、戦後すぐに孝直さんの父方のお祖母ちゃんが開業された「柿本うば車店」だ。このお店は60年間という長きにわたり尾道の人々に親しまれていた。
乳母車の専門店がなぜ半世紀を超えて存在するのか、その答えは店主のお祖母ちゃんの経営哲学によるところが大きい。
お買い求めいただいた乳母車はいずれは壊れる。壊れると交換部品が必要だ。商売が成り立たなくなった後も、乳母車を買われたお客が困られないよう部品を保管し、お店を続ける、これがお祖母ちゃんの経営哲学だった。そこには経済効率優先の歪みを抱える現代社会を超えた「もったいない」文化の豊かさがある。
孝直さんは、お祖母ちゃんから「おもてなし」の心を学んだ。そして「自分」という存在は、周りの人たちの和によって支えられていると考え、孝直さんは料理とおもてなしを通じて人の和を育む、「かけはし」になりたいと思うようになった。
年配の尾道人の脳裏には、この場所が乳母車屋であった記憶が今も鮮明に残っているのではないだろうか。その乳母車屋とは、戦後すぐに孝直さんの父方のお祖母ちゃんが開業された「柿本うば車店」だ。このお店は60年間という長きにわたり尾道の人々に親しまれていた。
父方のお祖母ちゃんの「経営哲学」
乳母車の専門店がなぜ半世紀を超えて存在するのか、その答えは店主のお祖母ちゃんの経営哲学によるところが大きい。
お買い求めいただいた乳母車はいずれは壊れる。壊れると交換部品が必要だ。商売が成り立たなくなった後も、乳母車を買われたお客が困られないよう部品を保管し、お店を続ける、これがお祖母ちゃんの経営哲学だった。そこには経済効率優先の歪みを抱える現代社会を超えた「もったいない」文化の豊かさがある。
孝直さんは、お祖母ちゃんから「おもてなし」の心を学んだ。そして「自分」という存在は、周りの人たちの和によって支えられていると考え、孝直さんは料理とおもてなしを通じて人の和を育む、「かけはし」になりたいと思うようになった。
郷土料理ではなく「郷土の味」を
料理の世界に入って20数年が過ぎた。尾道の山海が生む食材を調理することで、尾道の味を追求してみたい、郷土料理ではなく郷土の味を、それが孝直さんの追い求める夢だ。
大学に入り、飲食店でアルバイトをした。その体験から、揺るぎない信念をもって料理に向かう料理人の料理を食べたいと思い始めた。あるとき、そんな料理人の料理を口にする機会を得て、一番の幸せを感じたという。夢を実現するために、九州福岡や鞆の浦の景勝館・鴎風亭で約10年間修行し、向島の与加呂での数年の修行が続いた。
母方のお祖母ちゃんの「おもてなし」
「郷土味 かけはし」では、お客ひとり一人の席には、必ず俳句が書かれた短冊が置かれる。もちろん、同席に同じ俳句が書かれた短冊などない。書かれた俳句は、孝直さんの母方、大山寺のお祖母ちゃんが詠まれたもので、女将の早苗さんが心を込めて短冊に一枚一枚筆書きする。これも「郷土味 かけはし」のおもてなしである。
全席予約制
お客にとって大切な一日にしたい、そんな想いから部屋とカウンターの全席を予約制としている。
開業当時、 カウンターは予約制にしていなかった。ある時、若いカップルが二人の大切な記念日にと予約をされた。当日の二人は実に仲良く楽しいそうだったが、カウンターに同席となったお酒を呑まれた初老のお客が見境もなく二人の会話に割込んでいった。大切な一日が台無しとなってしまった。この日以来、店主の孝直さんはカウンターもたった一人のお客でも貸切の予約制とした。
見えざる「おもてなし」
お客に食材の鮮度と旨味がベストの状態でお出ししたいと、料理内容も完全予約制にしている。
例えば鯛、締めたときが一番歯ごたえがあるが、旨味が少ない。生きている時はアデノシンサンがあるが、締めたあとは分解されてイノシンサンという魚の旨味に変化する。そのため、鯛は歯ごたえよりも最高の旨味がある時間帯にお出しすることを料理人・孝直さんは優先する。予約の時間を見計らい、調理をするのだ。
伝えられてきた調理方法だけでなく、新しい調理法を求めるのが孝直さんの流儀だ。例えば、あなごは焼きや天ぷらが定石だが、「あなごの薄造り」を手間をかけ刺身にして提供する。そうした見えざる「おもてなし」がお客を感動させる。
店が休みになると柿本ご夫妻は「敷き葉」を求めて山歩きをするそうだ。彼らにとって仕事とは同時に生き方そのものでもあるようだ。ビジネスライクという言葉は「郷土味 かけはし」には存在しない。働く若い接客係とも人間関係を重視した付き合い方が自然体であり、時間があると料理に関した行動をともにし、茶道を習っているという。
料理人とスタッフの心のこもったおもてなし
右上の二枚の写真は、吾輩の失策によるちょっと問題ある写真である。というのは、吾輩のいつもの癖が出て、iphoneのシャッターを押すのを完全に忘れ、箸が先に動いてしまったその証拠写真だ。気がついたときは、お茶漬けのご飯の大半が胃袋に収まっていた。そんなわけで、同席の方に写真(ピントが甘い)をいただき掲載した。デザートは、サウスポーの吾輩がカップをそれ用に180度ぐるりと回したところで、写真を撮ることを思い出し、このようになった。楽しい宴も後半になると美酒が脳細胞を心地よくさせるため、ついつい吾輩が自らに課せた料理写真を撮るというミッションも忘れがちになっているという状況にご理解願いたい。それにしてもこの店に来ては、いつも思うことがある。それは、若い料理人とスタッフが真摯に取り組むお客様へのおもてなしの姿だろう。
尾道では、徐々にではあるが、再び質の高い料理を提供する若いオーナー料理人が育っている。(2020年2月)
■全席予約制
二階(畳座敷)14席〜20席、一階(掘り炬燵) 4席〜8席、カウンター6席
(昼)11:30〜14:00、(夜)18:00〜22:00
定休日:月曜日
722-0036尾道市東御所町3-12
tel.0848-24-3477 駐車場:1台あり
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