手間とコストがかる特殊な工法で作られた公会堂の壁面
あれは2012年頃ではなかったか。尾道市公会堂の前を車で偶然通りかかったところ、公会堂の北側壁面にピンを打ち込み、金網を取り付けている工事現場を見つけ、アッと驚いた。何をやっているんだ!思わず口走っていた。
建築家・増田友也が設計した尾道市庁舎本館と公会堂は、杉板本実(すぎいたほんざね)型枠コンクリート工法という、杉板の枠型を作り、コンクリートを打設することで、杉の木目をコンクリートに転写するという大変手間のかかる工法で造られている。
そんなことを知ってか知らでか、陽の当たらない北側壁面だけに壁面緑化(?)のための金網を取り付けているのだ。コンクリートに穴を開けるということは、この建物のコンクリート劣化を早めることになる。
すぐさま友人を通じて教育委員会に電話をして、調べてもらった。「何のために文化的価値のある公会堂のコンクリート劣化を進めるようなことをするのか?」と。担当者の回答はこうだ。「そんな有名な建築家の設計とは知らなかった。このたびは予算が付き、工事を始めたので止めることができない。この次からは気をつけます。」これには開いた口が塞がらなかった。
尾道市の職員は、そんなことも知らされていないのか....。何の疑問も感じること無く、杉の木目を写したコンクリート壁面を蔦で被い、野外彫刻を囲む空間をも台無しにする、という事業計画を指示された通り忠実に行ったのだ。それにしても、こんな馬鹿げた計画を立案したのはなぜか(!?)
さらに疑問なのは、グリーンウォールは壁の表面温度を下げるという手段で行われのが一般的だが、南側の太陽が当たる壁にはしないで、北側だけにすることの意味がわからない。公会堂の壁は珍しい折半工法で出来ていて、博田東平市長の時代に市内のあちこちに点在させては移設ばかりしていた野外彫刻を、亀田良一市長時代に公会堂のその凹凸空間に配置して、尾道市では珍しく文化的景観を演出していたのだが、そんな意識もないのだろうか。
そんな記憶が甦り、思わず「信じられない!」と叫びたくなったのだ。あの頃から、すでに公会堂を解体して市庁舎を新築しようとでも思っていたのか!?...。これは信じたくない話だ。
突如出てきた市庁舎新築という市長発言
2013(平成25)年、平谷尾道市長が、公の議論もなく唐突に市庁舎新築を言い出した。これには市の職員も驚いていた。そして「市庁舎の耐震性能が極めて悪い、いつ倒壊してもおかしくはない。」という、これは市庁舎西側の1970年代に増築した棟のことであり、それを市庁舎本館までも増築棟同等に耐震性能が低いと思わせ話をしているのだ。そんな尾道市の説明を一般市民は信じ切っていた。新築するなら今の場所でなく、どこか他の場所に新築すべきだ等等。市民はいつの間にか、市庁舎を新築することを前提とした議論を始めていた。そんな中、同年7月5日第1回市庁舎整備検討委員会が開催された。
今から考えると周到に計画された「新築」劇ではなかったか、と思える節がある。公会堂の耐震性能の調査をしないまま、検討委員会は強引なまでに市庁舎「新築」の結論に誘導されている。尾道市のホームページに公開されている議事録がそれを物語っているのだ。
決定的だったのは、新築案と改修案の概算工事費の比較データで、改修案の概算は、現実ではあり得ない工事内容で桁外れの金額が提示されていた。委員は、免震工法の専門家と鉄骨構造の専門家、そして広島県建築士会会長以外はほとんどの委員は建築の素人であり、尾道市より提示された改修工事費の概算金額を疑うものはいなかったようだ。表向きことは問題なく終わっている。その後に開かれた市議会本会議でも、市庁舎整備検討委員会同様で、市議会議員の誰一人として問題にする者は居なかった。
「尾道の将来を考える会」のメンバーは、尾道市が公開している第1回市庁舎整備検討委員会議事録を精査し、4種類の工法により算出提示された耐震改修における概算工事費に目を疑った。市庁舎本館(5,040mu)の工事費を1坪当り183万円(総額28億円)から212万円(総額32億円)と見積もっていたのだ。一方、尾道市が強引なまでに進めた日建設計との本契約では、現市庁舎の1.69倍の巨大建築物(12,700u)の新築費が約60億円で1坪あたり156万円だ。
新築費より改修費が遥かに高いというデータは、明らかに「新築」への誘導を証明するものだといわざるを得ないのではないか。実際、お隣の府中市庁舎(6,000u)は、4億円(一坪20万円)の工事費で耐震改修を2014年春に完成させている。また尾道市庁舎本館と同じ1960年代の建築物である旧国立岡山病院(20,000u)は、2005年に耐震補強・全面リニューアルする大規模コンバージョンを実施し、「きらめきプラザ」を誕生させた。その工事費が25億円で、1坪あたり41万円だ。尾道市の提示した耐震改修の概算工事費は、その5倍から10倍という現実にはあり得ない金額である。
尾道市の数々の説明に大きな疑問!?
尾道の将来を考える会が、実際に尾道市が提示した耐震性能調査のデータを基に、信頼できる専門家に尾道市庁舎本館の耐震改修工事費の概算を調査したところ、耐震壁をほとんど使用せず、日常の業務が問題なく行われるバットレス補強の工法で、余裕をもって1坪あたり40万円の6億円で十分耐震補強ができることがわかった。尾道市が提出した耐震改修の概算工事費が現実にはあり得ない高額なものであることがここでも証明されている。
なぜ、このような尾道市民を欺くことをしてまで市庁舎を新築したいのか?
2015(平成27)年3月尾道市議会で、某議員の「日建設計の契約(約1億8千万円)日を市長選挙の終わる4月27日以降に延期すべき」「市長選挙の争点は市庁舎の新築か耐震改修かであり、改修派が市長となった場合、新築はSTOPされ、数千万円の違約金発生のリスクがある。契約日を選挙の後にすべきではないか」との質疑に対し、尾道市長は全く貸す耳をもたず、選挙前の4月15日に本契約を結んだ。なぜ、そんなに急ぐのか?
尾道市は広報誌を使い、「耐震改修をしても耐用年数は伸びない」「海辺に免震工法により安心安全な防災拠点として市庁舎を新築」等等、大々的に誤った情報を市民に流した。
なかでも「合併特例債」は、政府系の日本政策投資銀行がその危うさを指摘していることも無視し、まるで補助金や助成金と同じく国が予め工事費の70%を現金で補償してくれるかのように大半の市民に誤解させていることだ。また、市長選挙告示がなされるこのときに至っても、「耐震改修をすると50年後にはまた膨大な改修費用が必要になり、二重投資となる」と誤った情報を市民に送り続けている。
信頼できるコンクリートの専門家によると、「尾道市庁舎本館は、古いにもかかわらずコンクリートの中性化は1階が僅かに中性化しているだけ。公開データでは1階で31.2mmに達しているが、他の階は最大23.1mmとなっている。これらをもとに中性化速度係数を算出し、築100年後の中性化の深さを計算すると、1階の中性化さえ補修すれば,これから50年後も中性化は30mm以下でほとんど問題はなく、以後、過大な補修も必要ない。」のである。
なぜ、このような尾道市民を欺くことをしてまで市庁舎を新築したいのか?
2015(平成27)年3月尾道市議会で、某議員の「日建設計の契約(約1億8千万円)日を市長選挙の終わる4月27日以降に延期すべき」「市長選挙の争点は市庁舎の新築か耐震改修かであり、改修派が市長となった場合、新築はSTOPされ、数千万円の違約金発生のリスクがある。契約日を選挙の後にすべきではないか」との質疑に対し、尾道市長は全く貸す耳をもたず、選挙前の4月15日に本契約を結んだ。なぜ、そんなに急ぐのか?
尾道市は広報誌を使い、「耐震改修をしても耐用年数は伸びない」「海辺に免震工法により安心安全な防災拠点として市庁舎を新築」等等、大々的に誤った情報を市民に流した。
なかでも「合併特例債」は、政府系の日本政策投資銀行がその危うさを指摘していることも無視し、まるで補助金や助成金と同じく国が予め工事費の70%を現金で補償してくれるかのように大半の市民に誤解させていることだ。また、市長選挙告示がなされるこのときに至っても、「耐震改修をすると50年後にはまた膨大な改修費用が必要になり、二重投資となる」と誤った情報を市民に送り続けている。
信頼できるコンクリートの専門家によると、「尾道市庁舎本館は、古いにもかかわらずコンクリートの中性化は1階が僅かに中性化しているだけ。公開データでは1階で31.2mmに達しているが、他の階は最大23.1mmとなっている。これらをもとに中性化速度係数を算出し、築100年後の中性化の深さを計算すると、1階の中性化さえ補修すれば,これから50年後も中性化は30mm以下でほとんど問題はなく、以後、過大な補修も必要ない。」のである。
2015年4月9日付け山陽日日新聞に「尾道の将来を考える会」から尾道市庁舎に関する第三弾の意見広告が出された。以下は、意見広告の後半・説明文を紹介する。
「尾道の将来を考える会」発、第3弾 意見広告
■合併特例債、「国の負担70%」はアテにならない口約束?!
合併特例債については、『里山資本主義』で知られる藻谷浩介氏(株式会社日本総合研究所調査部主席研究員、株式会社日本政策投資銀行 地域企画部 特任顧問)によって解説されたものにならって説明すれば、このようになるでしょう。国を社長、地方自治体を社員だと置き換えてみると、社長が社員に対して「○○円の家をつくりたいなら、銀行で住宅ローンを組みなさい。その内7割は、毎月の給料に組み入れて会社が払ってあげる」と口約束をしたようなものが合併特例債です。しかし給料が将来にわたって、これまで通り支給されるかどうかはわかりません。予想を裏切られて説明を求めても、それは会社の事情(国の専権事項)だからと説明もしてくれない可能性もあるのです。
お隣の府中市は、上下町と合併したので合併特例債が使えたのですが、あえて使わず市庁舎の耐震改修で済ませています。当時の首長が官僚出身者で、合併特例債の危うさを知っていたからだといわれています。
適切な検討なく尾道市が莫大な借金をすれば、そのツケは、日本全体を襲う急速な高齢化と人口減、迫り来る公共施設の老朽化とともに、財政をぴっ迫させ、最終的には次代の尾道市民が大きな負担を背負うことになるでしょう。すでに政府系の日本政策投資銀行もその危うさを警告しています。
■日本遺産登録を目指す尾道市が、文化的価値の高い近代建築を捨て去る!?
京都大学教授・増田友也設計の尾道市庁舎(1960年竣工)は、同年8月号の最も権威ある建築雑誌『新建築』に紹介され、同じ号の目次には「九州工業大学記念講堂」東京工大清家研究室、「名古屋大学豊田講堂」槇文彦が並んでいます。また、日本建築協会発行の『建築と社会』同年9月号でも「倉敷市庁舎」丹下健三計画研究室と共に取り上げられています。
これらの建築は50年以上経った今でも、どれもたいせつに使われています。「九州工業大学記念講堂」は戸畑キャンパスの中心にあって講演会などによく利用され、「名古屋大学豊田講堂」は当初の設計者である槇文彦氏が修復を手がけて2008年に蘇りました。「倉敷市庁舎」はいち早く1983年に「倉敷市立美術館」に用途転用(コンバージョン)され、倉敷市文化ゾーンの中心施設となっています。
戦後の近代建築として高い評価を与えられる建築は、どこにでもあるわけではありません。他の都市が羨むこの遺産を、尾道市は何の躊躇いもなく破壊しようとしているのです。
これらの建築は50年以上経った今でも、どれもたいせつに使われています。「九州工業大学記念講堂」は戸畑キャンパスの中心にあって講演会などによく利用され、「名古屋大学豊田講堂」は当初の設計者である槇文彦氏が修復を手がけて2008年に蘇りました。「倉敷市庁舎」はいち早く1983年に「倉敷市立美術館」に用途転用(コンバージョン)され、倉敷市文化ゾーンの中心施設となっています。
戦後の近代建築として高い評価を与えられる建築は、どこにでもあるわけではありません。他の都市が羨むこの遺産を、尾道市は何の躊躇いもなく破壊しようとしているのです。