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尾道市役所本庁舎建替え問題に関する調査は

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尾道の将来を考える会の報告書/CityhallProblem15


尾道の将来を考える会の報告書/CityhallProblem15

尾道市役所本庁舎の建替え問題に関する報告書作成にあたって


平成25年12月、私たちは尾道市役所本庁舎の新築建替えについて疑問を抱きました。それは、尾道市の戦後を代表するモダニズム建築の市庁舎本館と公会堂を壊し、新築するというのはなぜか?日本遺産の都市・尾道市だからこそ、知恵を使って耐震改修すれば「これら建築物を資産として次代に引き継ぎ」、その結果「建築費の大幅な縮減による財政的負担の軽減が可能」となると考えたからです。
私たちは2年間にわたり、尾道市の動向、特に市長発言、市庁舎整備検討委員会の議事録、広報おのみちを使った市民向けに発信された情報の真偽等について注視し、建築史、建築、建築耐震工学、基礎・地盤工学、コンクリート工学等、各分野の専門家、京都大学増田研究室OBとの連携とアドバイスにより、客観的なデータに裏付けられた判断をもとに、下記の報告書をまとめました。私たちは、この報告書を尾道市民に公開すべき義務があると判断いたします。
平成28年1月1日
尾道の将来を考える会
末永 航(美術史家/尾道市民)・岡河 貢(建築家/尾道市民)・西河哲也(地域プランナー/尾道市民)・大崎義男(NPO法人理事/尾道市民)

報告書●知っておきたい尾道市が市議会と市民に発信した『情報の誤り』


1)第1回尾道市庁舎整備検討委員会(平成25年7月5日)に提出された資料には、市庁舎本館(5,000m²)の一坪(3.3m²)当りの耐震改修費が概算183 万円~212 万円と記載されています。この耐震改修費は実際にはあり得ない高額な工事費です。我々の試算では、耐震補強と機能改修を合わせた耐震改修の工事費は一坪当り概算44.3万円となります。尾道市が計画している市庁舎新築工事費一坪当り概算156万円に比べても大幅に工事費を少なくできます。

【情報の誤りである根拠】


具体的な耐震改修の事例を見れば、一目瞭然。新築より高い耐震改修費であれば、検討委員会の委員の大半が「新築すべし」との意見に誘導される可能性が高いと思われる。尾道の将来を考える会の報告書/CityhallProblem15

A. きらめきプラザ(2005年6月)・・・・一坪あたり40万円
旧国立岡山病院(1960年竣工)の建物(20,816u)を耐震補強・全面リニューアルのリノベーション(用途変更)。
B. 広島県府中市庁舎(2014年5月)・・・一坪あたり22万円
Is値=0.15 の市庁舎(1974年竣工、6,000u)を耐震補強(約4億円)で、2014年5月にIs値=0.675の耐震補強。
C. 鳥取県庁舎(2011年11月)・・・・・一坪あたり28.4万円
鳥取県庁(1962年竣工)の建物(26,373u)をレトロフィット免震とブレースの耐震補強、外壁補修でリニューアル。

2)平成26年広報おのみち4月号で、「耐震改修を行っても耐用年数は伸びない」「耐震改修をしてもすぐまたメンテナンス(補修)が必要となるから耐震改修は二重投資となる」と記載されています。これは誤った情報です。耐震補強と適切なコンクリート劣化の補修により耐用年数は伸びます。
【情報の誤りである根拠】広島大学大学院工学研究院建築材料学の専門家は「建築物は、耐震補強と補修の二つ行うことで耐震性能の向上と長寿命化が可能になる。尾道市庁舎本館のような50年以上経った建物でも、適切な処置により更に数十年も寿命を延ばした建物の事例はたくさんある。」という。平成25年6月の安倍内閣の閣議決定を受け、文部科学省は「インフラ長寿命化基本計画」を策定。同省のホームページには、その前提となる「耐震改修による耐用年数の延長」を可能とする野口貴文(東京大学教授)が実証した資料が掲載されている。その資料「高経年化した建築物でも現在の技術によって再生は可能」をも、尾道市はすべて否定することを意味する。

3)平成27年広報おのみち3月号で、尾道市は平成25年度の公会堂が「低い利用状況」と記載。これは誤った情報です。公会堂利用率は市内の全ホールの中で最も高いのです。

【情報の誤りである根拠】


平成26年度の文化ホール運営委員会で発表された文化施設課の年度報告書では、稼働率52.4%と市内6ホール中で一番使用率が高いことが記載されている。調査の結果、尾道市は市民が無料で使用した利用率を差し引き、有料の利用率だけをカウントして発表している。このため、公会堂を解体することは、文化的建築物を尾道が失うだけでなく、尾道市民が日常で文化的活動を行うにあたって、施設の利用が困難となり支障をきたすことが容易に予想される。

4)平成27年広報おのみち3月号で、「耐震改修では、耐震壁等により部屋が分断され、非常に使いにくい状況(住民サービスの低下)」と記載されています。これは誤った情報です。市庁舎本館をバットレスで耐震補強すれば、耐震壁は不要で部屋が分断され住民サービスの低下となることはありません。

【情報の誤りである根拠】


広島大学大学院建築耐震工学の専門家によると、市庁舎整備検討委員会に提出されたデータを基に、尾道市が要求する耐震性能(Is=0.9)を満たすためには、耐震ブレース(耐震壁など)を採用する場合は、南北方向に4〜6カ所を追加するだけで十分と結論づける。また日常業務に支障なく工事をするためには、耐震ブレースを使わないバットレス補強が可能であることも明言している。バットレスとは、建物の壁に加わる横方向の力に対して、転倒を防ぐために壁から突き出した状態の補強用の構築物。平たく言えば、つっかい棒の役目をする構造物。

5)平成26年3月末の市庁舎新築予定地の地質調査の結果が、7ケ月後の10月市議会予算委員会の要請で初めて公表されました。それは震度6強の地震により「液状化の可能性」があるというもの。液状化の可能性に対して、平谷市長は「固い岩盤まで杭を打ち免震も施す」ので絶対大丈夫と11月4日に公会堂別館で開いた市政報告会で発言(中国新聞尾三版11月8日)。これは誤った情報です。液状化は免震や単に固い岩盤に杭を打つだけでは解決しません。高額で強健な杭と液状化防止対策が必要です。

【情報の誤りである根拠】


新築に採用される免震工法は、液状化の影響を受け易い。液状化防止工事をしなければ、免震装置は致命的なダメージにより、その機能を発揮できない。また一般的な杭を岩盤に打込んでも液状化により杭が折れ、建物が倒壊してしまう可能性が大きい。そのため、高価で強健な杭やコンクリート壁等による液状化対策や液状化防止工事が必要となり、工事費がさらに高額となる。市議会にすみやかに報告する義務があると考えるのが一般的だ。

6)平成27年10月21日、尾道市は市のホームページに掲載した「市庁舎の建替えQ&A」で、市庁舎本館部分の「杭が強固な地盤に届いていない」が、本館西側の「増築棟の杭は23mから25mの強固な地盤に届いている」とし、そのために本館の東側が沈下し、西側が3.5cm浮き上がった(不同沈下)という事実とは異なったイメージ図を掲載し、市庁舎新築の優位性を誘導しました。これは完全に誤った情報です。根拠ない誤った情報を尾道市がホームページで発信したという責任は重大です。
尾道の将来を考える会の報告書/CityhallProblem15

【情報の誤りである根拠】


不同沈下とは基礎や構造物が傾いて沈下すること。 不同沈下がある一定量を超えると基礎・壁・梁などにクラックが発生し、ドアや建具の開閉不良、建物の傾斜などの障害が出るが、市庁舎本館にはそれは見られない。可能性があるとすれば、現実は強固な地盤に届く杭を打っている増築棟が沈んでいるとしか考えざるを得ない。この虚偽のイメージ図が市役所内でも問題となり平成27年10月26日その記事は削除されたという。(左側が市庁舎本館で右側が増築棟)

7)平成27年10月21日に尾道市は市のホームページに根拠のない誤った情報を掲載し、その一週間後の26日に誤解を招く不適切なものと削除しました。にもかかわらず、平谷市長は、11月4日尾道市公会堂別館で行われた市政報告会で、削除されたその不適切な情報(イメージ図)を使って、液状化問題について説明されていたことが判明しました。(中国新聞11月8日の尾三版に写真入りで掲載)不適切な情報だと市みずからが判断し、削除したイラスト図を再び使用した市長説明に、液状化問題に対する市民の誤解を招く可能性は否定できません。尾道の将来を考える会の報告書/CityhallProblem15


8)平成27年の広報おのみち11月号で、「市庁舎本館と増築棟の手すりが最大で3.5cmずれています。本館棟や公会堂は、50年以上前の工法で建てられているため、建物を支える杭は強固な地盤に届いていません。新庁舎では、強固な地盤まで杭を設置することで、安全安心な建物にすることができます。」と市民にアピール。巧妙な手口で本庁舎の杭打ちが不完全であるかのような誤解と印象を与え、市庁舎新築に誘導しています。これは情報操作だと言われても否定できないでしょう。
尾道の将来を考える会の報告書/CityhallProblem15

【情報の誤りである根拠】


『尾道市政だより』(1960.4.5)によれば、尾道市庁舎本館(1960年築)は、12メートルの杭を422本、10メートルの杭を15本、計437本もの杭を打ち込んだとある。当時の写真をみると、この杭は明らかにコンクリート製だ。公会堂(1963年築)の場合は、『広報おのみち』(1963.3.15)「公会堂建設の歩み」に「埋立地に第1号のコンクリートクイを打ち込む」とあり、やはりコンクリートの杭が使われている。
1960年当時の工法のでは、5000uの本館を支えるため437本もの多くの杭をそれに見合った浅い支持層まで打込むことで問題はない。もし杭が足らず、深さが不足であれば、建物は完成後すぐに沈下し始めたはずだ。
1970年代に入り、杭打ちの工法が変わってきた。より深い強固な支持地盤に太い杭を打込む技術が開発され、杭の本数を極端に減らすことができた。2,500uの増築棟は,市の発表によれば23m〜25mの深さまで打込まれた12本の杭で建物を支えている。
1960年当時の工法で打たれた膨大な数の杭で支えられた尾道市庁舎本館と公会堂は、50年を越える長期にわたり、まったく地盤沈下していない。広島大学の地盤・建築基礎工学の専門家は、このことが「400本を越える杭が建物の荷重を十二分に支えている証拠」であり、「建設後55年を経過した現在では、地盤が踏み固まっている可能性が高い」と話している。

9)平成27年広報おのみち12月号で、ふたたび「耐震改修しても建物寿命は延びない」「合併特例債は、普通交付税措置されるので、市の負担が大きく軽減される」等等の情報を市民向けに掲載しました。これは誤った情報です。適切な耐震改修により建物の耐用年数は延びます。このことは2)で説明済み。 また合併特例債はリスクをもった借金で、財政を圧迫する可能性があります。

【情報の誤りである根拠】


市庁舎新築あるいは耐震改修にも適用可能な合併特例債とは、地方交付税の中に組み込まれるもの。平成27年8月尾道市財務課提出の今後の財政推計では、地方交付税は前年度比較で平成27年度が0.3億円、28年度が9.2億円、29年度が12.4億円、30年が11.2億円、31年度が13.8億円、32年度が14.4億円それそれ減少するとなっている。6年間だけみても総額61.3億円の減少となる。
また平成26年3月に作成された第6次尾道市行財政改革大綱でも「平成27年度から、普通交付税の合併算定替の特例期間の終了に伴い、交付税が段階的に削減され、最終的に単年度で約32億円が削減されると見込まれている」と明記されている。日本開発銀行地域企画部は平成25年11月「合併市町村が直面する財政上の課題」)中で、合併特例債により財政運営の大きな重しになる可能性が大きいと指摘。
また尾道市は急速な人口減、それに伴う地域経済の縮小と市の歳入の減額、今後発生する市が所有する公共施設の老朽化による膨大な改修費用がさらに財政を圧迫する。NHKクローズアップ現代「平成の大合併 夢はいずこへ」(平成26年4月30日放送)では、合併特例債を活用した兵庫県篠山市など多くの自治体が財政の危機的状態となった事例を紹介した。尾道の将来を考える会の報告書/CityhallProblem15


10)平成27年12月市議会で、平谷市長は議員の液状化問題の質問に「想定範囲内で何の問題もない」とし、依然として安心安全な海辺の防災拠点として現庁舎の1.7倍の市庁舎新築を目指しています。この市長発言は誤りです。想定範囲内であるならば、なぜ震度6強の地震から市民の生命や家屋を守る具体的諸策を打ち出さないのでしょう。さらに津波が襲ってくる海辺の市庁舎に避難する市民をどのくらい想定されるのでしょう。

【情報の誤りである根拠】


市が想定する震度6強による液状化に対応するには、想定外の高額な建設費が必要となるだけでなく、仮に尾道の歴史的風致地区に液状化の可能性がなかったとしても、市民の生命の危険と家屋の甚大な被害が予想される。平谷市長は12月市議会の液状化に対する一般質問に対して「民間の液状化の可能性については、それぞれが対応するように注意を喚起する。」と答弁されている。この発言は、巨額の税金を市庁舎新築では使うが、民間のことは民間で市民自ら解決するようにという意味に聞こえてくる。
私たちが調査の過程で発見した尾道市政だより(昭和35年4月5日/尾道市中央図書館蔵)に掲載された建築家・増田友也の市庁舎落成への寄稿文をご紹介しましょう。

「尾道市庁舎の建築的特質」…京都大学建築学教室 増田友也


およそ建築についての評価は、次のような三つの観点から行われるのが普通であります。即ち機能的な観点構造的な観点、それから美的な観点であります。そこで尾道市庁舎についての建築的特質もこの三つの観点から摘記して見たいと思います。

1.機能計画的特質


本建築の平面計画は、戦前にはその例を見なかったところの、いわゆるコアシステム(核組織)に拠っている。その間取りにおいて、交通、配管など建物内の主要な血脈的部分が人間の身体と同じようにすべて平面の中心に納まっている。
従ってコアシステムのもついろいろな特質、例えば配管や空間の単純さ、したがってその経済性、合理性などこの案はすべて持っている。しかもそれをもっとも純粋な形でもっている。例えば、第二階の平面を見ると48m×18m(261坪)の全床面がコアを中心にもつ一室である。このように単純明快な平面をもつ建物はいまだかつてないのであります。

2.構造的特質


このコアシステムは、本来、建物を有機体と見なす考え方にはじまるものであります。この場合、建物はあたかも人体とか樹木のような組織と構造をもつものであります。
従って上記の血脈のほかに、この建物人体の骨格のように、また大樹の躯間ように大地からまっすぐ立ち立っているたくましい筋骨が必要なのであります。単に必要なばかりでなく、そのバックボーンに当たる部分には、当然甚だ高い強さが要求されましょう。
そこでコンクリートには1㎠当り250kg以上の強さと云う注文がつけられ、そのほかにも尾道市としては、おそらく前例のない程の高性能の施行が要請されているのです。
一方このような機能的な設計によって、資材所要量がかなり軽減されていることは云うまでもありません。

3.美的特質


この建物の美しさについては、当地の新聞その他にしばしば報道されていますから、も早や賛言を要しないところでありましょう。
コアシステムの採用によって、あたかも五重塔と同じように、その外部に現れる肢態が明らかに分節化し、甚だ軽妙な印象を与え、それが鉄筋コンクリートの打放し仕上げと相まって伝統的な日本的性格を強く打ち出しているのであります。
この建物が、あの壮大な厳島神社と対比し得る記念的建築物になるように、設計者は衷心から祈っているのであります。
【注意】上記文章は、昭和35年当時の原稿に使われている漢字等を、勝手ながら現代のわれわれがが読み易いような表記に変更しております。
2014年2月に日本建築学会中国支部は「尾道市庁舎本館と公会堂の保存・活用に関する要望書」、日本建築学会中国支部 建築歴史意匠委員会は「尾道市庁舎本館と公会堂についての見解」を尾道市長宛に提出している。また著名な全国誌「CASA BURTUS」(完全保存版 平成27年7月発刊) では、「今すぐ重要文化財にしたいモダニズム建築88選」に尾道市庁舎本館と公会堂が選ばれている。
      
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