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尾道・朱華園には二代続く創業者がいる

朱華園の中華そば/Shukaen


朱華園の中華そば/Shukaen

中華そばと尾道ラーメンの関係


禅問答ではないが、尾道の老舗ラーメン店には、「尾道ラーメン」はない。
「尾道ラーメン」という名前がこの世に生まれたのは1983〜4年の頃で、名付け親は尾道の「はせべ製麺所」の先代社長である長谷部 貴さんだ。その後、1993年に福山市鞆の浦にある珍味メーカーの阿藻珍味がお土産用に御当地ラーメンを開発し、はせべ製麺所の承諾を得て「尾道ラーメン」の名前を使用し、新聞広告を大々的に行い全国展開したところ、ブレークしたのだ。
尾道にある朱華園をはじめとする老舗のラーメン屋の開業は、ほとんどが1940〜50年代だと思われる。
朱華園の中華そば/Shukaen

朱華園のことを尾道市民は「朱さん」と呼ぶ

朱華園の中華そば/Shukaen
台湾出身の朱阿俊さんが、戦後の昭和22(1947)年に尾道で屋台の中華そば屋を始めた。それが全国的に知られた「朱華園」の出発点だ。朱華園の店に入ると、食通として知られた作家 檀一雄が、「朱華園」初代店主の中華そば(ラーメン)を食べて感激したという雑誌「旅」の記事が、真鍮の銘板に刻みかけてある。
吾輩の飼い主もよく話すことだが、『吾輩が大学生時代に(というから1960年から1970年初頭あたりの話)、昼飯を食って3時頃に「朱華園」の中華そばを食しても、その麺とスープ、それにチャーシューの味の美味しさは、感動ものだったという。そしてその頃は麺は硬めか柔らかめとか、お客の注文にも応じていたという。そんな「朱華園」の味が脳裏に染み付いているので、この世代の尾道人にとっては、その後のさまざまに出会う尾道の中華そば(あるいは尾道ラーメン)には感動しないという不幸がつきまとう。
初代の味が多くの尾道人を魅了していただけに、父である朱阿俊さんの他界により、この店を急きょ継ぐことになった二代目・壇上俊博さんは大変だったに違いない。
当時、俊博さんは神戸学院大学・大学院修了後、体調を損ねた父を助けるため帰郷、家業に入ったが、父から何も伝授されていなかった。スープの分析、うまみや塩分の研究、台湾や香港まで出かけての味の探究に明け暮れたそうだ。
初代の時代とは食材も違う。まして、人の味覚も時代とともに変化する。観光客と違って、尾道人にとっては「朱さん」のそばは、日常の食事の選択枝の一つとして定着している。それだけに食べなれた味の微妙な変化には敏感だ。

なかでもオススメはチャーシュー麺と焼きそば


朱華園の中華そば/Shukaen
二代目になって、尾道を訪れる観光客はズンズン増えてきた。そして全国にご当地ラーメン・ブームが到来した。そのため、土日や祝日になると、朱華園のある薬師堂通りは、尾道ラーメンを求めて観光客が長蛇の列となり、尾道市民は「朱さん」の中華そばが食べられなくなった。
多くの観光客は、朱華園のチャーシュー麺の美味しさを知らない。観光客がモクモクと中華そばを食べている平日、運良く吾輩の主人が店に入れると、ちょっとVIPな気分で注文するのは「チャーシュー麺」だ。初代店主と二代目店主の味を長年食してきた吾輩の飼い主のおススメは、何といっても「チャーシュー麺」だ。
まず初めに、麺を被うように重ねておかれたチャーシューの上に溜まっている少し冷えたスープ、チャーシューの下の熱々のスープの順にれんげで掬って一口二口飲む。そしてスープが絡んだ麺を食べ、次に絶妙な甘味のあるチャーシューを1、2枚食するのだ。あとは気の向くまま麺、チャーシューを吾が口に運び込む。
この店には、もう一つのお気に入りがある。ちょっとボリュームのある「焼そば」もお薦めだ。しかし、この焼きそばも人気が高く、開店1時間もすれば売り切れとなる。この焼きそばの味を言葉では表現しにくいが、この店独特の味付けにはきっと満足されることだろう。ちなみにラーメン店が多い尾道で、自家製麺を作っているのは、この店だけだろう。(2020年6月現在では、自家製麺は老舗の一楽ほか数店舗あるという。)
オートマチックに作られる食べ物とは違い、「日によっては不出来のときもあります。そのときは御免なさい!」と二代目壇上さんの率直な弁。尾道人が納得する「朱さん」の中華そばづくりに25年近く経った今も、二代目店主は毎日が真剣勝負だという。朱華園には二代続く創業者がいる。(2002年)

十四日元町4-12 TEL 0848-37-2077  P2台
営業時間 11:00〜20:00(売り切れ次第閉店)
定休日/木曜、第3水曜日

二代目店主の壇上俊博さんの健康上の理由により、「朱華園」は創業72年となる2019年6月19日より長期休業となった。いつか再開されることを願っていたが、どうやらそれは無理のようだ。(2020年10月)

2020年11月16日の大安に、暖簾の片隅に「朱」という文字が染められているのを目にして驚いた。何の情報もなく、朱華園のオーナー檀上俊博さんの妹さんが営んでいた陶器店「陶子」だった場所に暖簾がかかり、お客が中華そばを食べている情景が見られた。吾輩はなぜ閉店した朱華園ではなく、新たな場所で?と疑問をもった。
その疑問の解答を求めるため、12月1日新店舗「朱」で叉焼麺(チャーシューメン) を食した。その結果、檀上さんの妹さんは、「朱華園」とはまったく違った新店舗「朱」をオープンしたのだということで合点がいった。(2020年12月1日)
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